名古屋高等裁判所金沢支部 昭和30年(う)50号 判決
最後に職権を以て案ずるに、被告人吉崎に対する原審認定事実中第四(一)乃至(一二)(一五)は、いずれも昭和二十九年六月十二日法律第百七十七号により、覚せい剤取締法第十七条第四十一条等が改正される以前の所為に係り、同法附則第二項に依り、従前の例によつて処罰せらるべきものであることが明白なるところ、原判決の擬律を検討すれば、原審はいずれも新法施行後為された他の被告人の所為及び新法施行後犯した被告人吉崎の所為と等しく、被告人吉崎の所為中新法施行前の分に対しても、擬するに覚せい剤取締法第十七条第三項第四十一条をもつてし、新旧両法適用の如何を区別していないことを認め得べく、原判決の適用した覚せい剤取締法第十七条第四十一条等は、前後の関係よりして、新法であると解されるので、原審は認定事実の一部に対し、新法附則第二項により旧法を適用すべきであるにも拘らず、その悉くにつき被告人に不利益な新法を適用し、その結果被告人吉崎に対し、懲役五月、罰金二万円の刑を言渡したものであることが明白である。ところで、体刑については、重い新法違反の罪の刑に、併合罪の加重をした刑期範囲内で処断されても、被告人は格別刑の量定範囲に関し、不利益を蒙るものでないと言わねばならぬけれども、罰金刑については、軽い旧法違反の罪を重い新法違反の罪と誤られる場合に於ては、被告人は各罪につき定められた罰金額の合算範囲内で処刑されるため、刑の量定範囲に関し不当に不利益を受けることが明瞭である。そうして見れば、原判決は法令の適用を誤つたものであり、その誤りは判決に影響するから、被告人吉崎に対する部分に限り、原判決はこれを破棄すべきである。
よつて、弁護人Aの被告人吉崎の量刑に関する論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十条に則り被告人吉崎稔に対し原判決を破棄した上、同法第四百条但書により次の通り判決する。
原審認定の事実に法律を適用するに、被告人吉崎稔の判示第四(一)乃至(一二)(一五)は昭和二十九年六月十二日法律百七十七号による改正前の覚せい剤取締法第十七条第三項第四十一条第一項第四号罰金等臨時措置法第二条に、爾余の所為は改正後に於ける前記各法条並に罰金等臨時措置法第二条に各該当するところ、情状により懲役及び罰金を併科すべきものとし、以上は刑法第四十五条前段の併合罪であるから懲役刑については同法第四十七条第十条に従い、重い判示第四(一六)の罪の刑に法定の加重を為し、罰金刑については、同法第四十八条第二項により、各罪につき定める罰金の合算額以下に於て、被告人吉崎を懲役五月並に罰金壱万五千円に処すべく、なお同法第十八条に従い、右罰金不完納の場合の換刑処分を主文末項掲記の如く定むべきものとする。
(裁判長判事 水上尚信 判事 成智寿朗 判事 沢田哲夫)